着床不全(Recurrent Implantation Failure)
一般に、3回以上良好な胚(受精卵)の移植を繰り返しても妊娠しない場合、着床不全(Recurrent Implantation Failure)の可能性があります。
着床不全の多くは、胚によるものと考えられますが、その原因は多岐にわたり通常の不妊検査に加え様々な検査・治療が試みられています。
当院では、主に以下の検査を行っています。
慢性子宮内膜炎検査

慢性子宮内膜炎とは、月経では剥離しない子宮内膜の深い部分(基底層)に、慢性的に炎症が起こっている状態で、着床率が1/3に低下、そして妊娠初期の流産率が上昇すると報告があります。子宮内の細菌叢バランスが乱れることにより起こると考えられており、不妊症患者全体での2-3%、着床不全患者の30-60%の頻度で生じていると報告されています。そのため、着床不全患者に限定した場合に慢性子宮内膜炎の検査・診断は有用であると考えられます。
① 組織診(自費周期のみ施行可)
子宮内膜組織を少量採取し、慢性炎症の所見の有無を顕微鏡で病理学的に確認します。
② 遺伝子検査(先進医療としても施行可)
ALICE(感染性慢性子宮内膜炎検査)
子宮内膜の慢性的な炎症の原因にかかわりが深い細菌の有無を遺伝子レベルで確認します。
EMMA(子宮内膜マイクロバイオーム検査)
子宮内腔の善玉菌であるラクトバチルス属の割合を含む、細菌叢バ ランスを遺伝子レベルで確認します。
▶ 炎症や細菌叢の乱れが判明した場合、抗生剤による治療やサプリメント等でバランスを整える治療が必要となります。
ERA(Endometrial Receptivity Analysis)(先進医療としても施行可)
子宮内膜は、胚を受け入れる着床に適した時期(着床ウインドウ)があると報告されており、個人差があると考えられています。ERAは個々の着床ウインドウを約250個の発現遺伝子を解析することで明らかにする検査です。検査を受けた方の30%近くに着床ウインドウのずれを認めたと報告されています。
EMMA、ALICEと併せて行うこともできます。
▶ 着床ウインドウのずれが判明した場合、個々のずれに応じた時期に個別化された胚移植を行います。
ビタミン・ミネラル バランス検査(自費周期のみ施行可)
ビタミンやミネラルのバランスはIVFの成績や着床、流産に影響すると報告されています。
▶ 不足やバランスの乱れがある場合は、サプリメントによる補充をお勧めします。
免疫寛容の検査:Th1/2細胞(自費周期のみ施行可)
受精卵・胎児に対する母体側の拒絶反応が強い場合、妊娠維持がうまくいかなくなる可能性があり、これらの免疫バランスを評価する検査です。
拒絶反応を起こす可能性が高いと評価された場合、拒絶反応を抑えることで着床・妊娠維持が可能となるとの報告があります。
▶ 免疫抑制剤を用いて拒絶反応を抑えることで着床・妊娠維持を図ります。
受精卵側の問題の検査(自費周期のみ施行可)
PGT-A(Preimplantation Genetic Testing - Aneuploidy):着床前胚染色体異数性検査。
移植胚の全染色体の異数性(いわゆるトリソミーなどの数的異常)を調べる方法です。
▶ 正数性胚を移植することにより、流産率の低下や移植あたりの妊娠率の向上が期待されます。
自己成長因子を用いた着床不全の治療
① 自己多血小板血漿(PRP)を用いた治療
患者さま本人の血液由来の多血小板血漿(platelet-rich plasma,PRP)を用いた治療方法です。
PRPの主成分である血小板は、組織の修復、損傷部位の血管新生、創傷の治癒に必要な「成長因子」を多数放出することが知られています。
PRP療法は、血小板から放出される成長因子を効率的に濃縮・組成し、治療したい部位へ注入することによって、本来、自分の体が持っている細胞の再生能力を局所的に最大化する治療法です。
不妊治療分野でのPRP療法においては、血小板に含まれる成長因子が子宮内膜環境改善を促すことが明らかにされています。
これを子宮内に注入することで、子宮内膜の組織修復が促進されて、子宮内膜が厚くなることや子宮内環境改善が促されることで受精卵が着床しやすくなると考えられ、妊娠・出産率が改善するといった論文が多数報告されています。
参考文献
Maki Kusumi et al. Reprod Med Biol;19:350-356
対象
- ・不妊治療中で移植を予定している女性の患者さま
- ・子宮内膜が厚くならない患者さま
- ・反復して治療不成功の患者さま
方法
PRPの子宮内への注入は1周期・原則2回投与となります。
PRPの調整は無菌の状態でおこないます。患者さまの前腕から静脈血を20ml採取し、専用の機械で血漿部分を抽出します。このように調整したPRPは、子宮用のチューブで患者さまの子宮内に注入します。
安全性
当院は、患者さまの不妊治療を目的に2020年12月にPRP療法の認可を受けました。患者さま自身の血液を用いた治療法ですので、アレルギー反応等の心配が少なく、これまで国内外での使用において、重篤な副作用は報告されておりません。
料金
PRP作製、子宮内注入(2回の場合)費用 20万円(消費税別)
PRP作製、子宮内注入(1回の場合)費用 15万円(消費税別)
※料金は予告なく変更となる可能性があります。
② 自己血小板由来成分濃縮物(PFC-FD)を用いた治療
PFC-FDは、PRP(多血小板血漿)に含まれる「成長因子」のみを抽出・濃縮し凍結乾燥させたもので、体内の組織修復・治癒などを促す因子の濃縮物です。PRP同様、患者さまご自身の血液から抽出した高濃度の血小板に含まれる成長因子を子宮内に注入します。
血小板中の「成長因子」は細胞の成長を促す物質を含むため、これを子宮内に注入することで、子宮内膜の組織修復が促進されて、子宮内膜が厚くなることや子宮内膜環境改善が促されることで受精卵が着床しやすくなると考えられています。
PFC-FD療法のメリット
- ・PFC-FDは予め作製し室温長期保存(保存期間6か月)できるので、治療スケジュールに柔軟に対応できます。
- ・注入日の診察も短時間で終了します。
※注意点
採血を行ってから、PFC-FDを作製するには3週間ほどかかりますので、治療を希望される場合には、計画的に進める必要があります。
対象
- ・不妊治療中で移植を予定している女性の患者さま
- ・子宮内膜が厚くならない患者さま
- ・反復して治療不成功の患者さま
- ・感染症検査(HIV、HBV、HCV、梅毒、HTLV-1)で陰性の患者さま
方法
- ① 採血~PFC-FD作製
患者さまの前腕から静脈血を49ml採取します。
PFC-FDは、提携しているセルソース再生医療センター(特定細胞加工物製造許可施設、厚生労働省認可)に、採血した血液を搬送し作製します。血小板由来因子のみを抽出濃縮してフリーズドライ化した状態で返送され、当院で使用します。
作製には最低3週間ほどかかります。 - ② 注入
PFC-FDの子宮内への注入は1周期・原則2回投与となります。
月経10日目頃と12日目頃を目安に2回に分けて子宮内に注入します。
(1回の注入につきPFC-FDを1本使用します)
安全性について
PFC-FD療法は患者さま自身の血液を用いた治療ですので、アレルギー反応等の心配が少なく、重篤な副作用は極めて少ないものです。
料金
- ・PFC-FD作製費用 15万円(消費税別)
- ・PFC-FD子宮内注入 2万円(消費税別)
- ※PFC-FD注入を1回にした場合も料金は変わりません。
- ※感染症検査にて精密検査が必要となった場合は、5,000円程度の検査費用が追加となります。
- ※料金は予告なく変更となる可能性があります。
その他留意点
- ・採血から加工に最低3週間ほど要します。使用期限は6ヶ月です。
- ・作製したPFC-FDは患者さまご自身で保管いただきます。